Packet Tracerで学ぶOSPF静的ルート再配布設定

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はじめに

本記事は、基本的なOSPF設定を一通り学んだ方が、次のステップとして「スタティックルート(静的経路)や直結ネットワークをOSPFで再配布する」ニッチなトピックに取り組むための解説です。

Cisco Packet Tracerを使った演習形式で、OSPFルーティングプロトコルにスタティックルートおよび直結ルートを取り込む設定方法にフォーカスします。

単なるOSPFの基礎では物足りない中級者向けに、設定手順を具体的に示しながら要点を解説します。

ネットワーク構成

本演習では、4台のルーター (RT-01~RT-04) がLAN接続されたネットワークを使用します。

各ルーター間のインターフェースIPアドレスと接続構成は次の通りです:

  • RT-01:LAN側にネットワーク192.168.1.0/24
    GE 0/0/1: 192.168.1.1を持ち、PCなどの端末が接続されている想定です
  • RT-01 ⇔ RT-02: ネットワークアドレス 192.168.2.0/24
    RT-01のG0/0/0インターフェース: 192.168.2.1、RT-02のG0/0/0: 192.168.2.2

  • RT-02 ⇔ RT-03: ネットワークアドレス 192.168.3.0/24
    RT-02のG0/0/1: 192.168.3.1、RT-03のG0/0/0: 192.168.3.2
    • RT-02はOSPFを稼働させるルーターで、RT-03との間でOSPFネイバーを形成します。

  • RT-03 ⇔ RT-04: ネットワークアドレス 192.168.4.0/24
    RT-03のG0/0/1: 192.168.4.1、RT-04のG0/0/0: 192.168.4.2

  • RT-04:LAN側にネットワーク192.168.5.0/24
    G0/0/1: 192.168.5.1を持ちます。ここにPCなどが接続されている想定です。

ポイント: RT-02とRT-03の2台のみでOSPFを動作させ、OSPFエリア内に他のルータが知らない経路(RT-01側のLAN 192.168.1.0/24やRT-04側のLAN 192.168.5.0/24、およびOSPF未参加区間のネットワーク)を再配布します。

RT-01およびRT-04はOSPFに参加しないため、自身の知らない宛先への経路をスタティックルートで設定し、中間のOSPFルーターにトラフィックを委ねます。

設定手順

それでは、上述のネットワークを使って実際に設定を行っていきます。

初期状態のPacket Tracerファイル(設定前)は以下に用意してあります。

完成時のファイル(設定後)は記事末尾に用意しています。

初めに初期状態のファイルをダウンロードし、以下の手順に沿って設定を進めてください。設定に詰まった場合は、完成ファイル内のコンフィグや本記事中の設定例を参照して確認しましょう。

RT-01およびRT-04に静的ルートを設定する

まず、OSPF非参加ルーターであるRT-01RT-04に、ネットワーク全体の宛先経路を指すスタティックルートを設定します。

これにより、両端のルーターが自分の直結していない宛先にパケットを転送できるようになります。

RT-01:
自身が属さないネットワーク (192.168.3.0/24, 192.168.4.0/24, 192.168.5.0/24) への経路を、隣接するRT-02をゲートウェイに指定して追加します。RT-02のRT-01側IPは192.168.2.2なので、次のように設定します。

RT-01(config)# ip route 192.168.3.0 255.255.255.0 192.168.2.2
RT-01(config)# ip route 192.168.4.0 255.255.255.0 192.168.2.2
RT-01(config)# ip route 192.168.5.0 255.255.255.0 192.168.2.2

RT-04:
同様に、自身が属さないネットワーク (192.168.1.0/24, 192.168.2.0/24, 192.168.3.0/24) への経路を隣接するRT-03経由で追加します。RT-03のRT-04側IPは192.168.4.1です。

RT-04(config)# ip route 192.168.1.0 255.255.255.0 192.168.4.1
RT-04(config)# ip route 192.168.2.0 255.255.255.0 192.168.4.1
RT-04(config)# ip route 192.168.3.0 255.255.255.0 192.168.4.1

これらの設定により、RT-01とRT-04は自ネットワーク外の宛先をすべて隣のOSPFルータへ任せるようになります。

例えばRT-01は192.168.3.0/24以降の宛先はRT-02(192.168.2.2)へ送り、RT-04は192.168.1.0/24~192.168.3.0/24宛てをRT-03(192.168.4.1)に送ります。

両端ルーターは静的ルートのみで経路を把握し、中間のRT-02とRT-03がOSPF経路制御を担う形です。

RT-02でOSPFを設定し、スタティック/直結ルートを再配布する

続いて、RT-02にOSPFの設定を行います。RT-02はRT-03との間でOSPFネイバーを形成し、自身の持つスタティックルートや直結ネットワークをOSPFに流すASBR (Autonomous System Boundary Router) の役割を担います。

RT-02にスタティックルートを追加する

まずRT-02自身が知らないネットワーク192.168.1.0/24(RT-01側LAN)を指すスタティックルートを設定します。ゲートウェイはRT-01のIPアドレス192.168.2.1です。

RT-02(config)# ip route 192.168.1.0 255.255.255.0 192.168.2.1

これでRT-02はRT-01側LANへの経路を静的に認識しました。後でこの経路情報をOSPFに乗せることで、OSPFドメイン内の他ルーターにも伝播できるようにします。

OSPFプロセスの有効化

次に、OSPFルーティングプロセスを開始します。プロセスIDは任意の番号で良いですが、ここでは1を使用します。

RT-02(config)# router ospf 1
RT-02(config-router)# router-id 2.2.2.2        ! 任意設定: OSPFルーターID

router ospf 1コマンドでOSPFを起動し、(必要に応じ)router-idでこのルーターを識別するIDを設定します。(※ルーターIDは明示的に指定しなくてもOSPFは動作しますが、デバッグや確認時に識別しやすくするため設定しています。)

OSPFネットワークコマンドの設定

RT-02が所属するネットワークでOSPFを動作させます。RT-03との接続ネットワーク192.168.3.0/24上でOSPFパケットを有効にするため、以下のnetworkコマンドを指定します。

RT-02(config-router)# network 192.168.3.0 0.0.0.255 area 0

Wildcardマスク0.0.0.255を付与することで、192.168.3.0/24内のIPを持つインターフェース(この場合RT-02のG0/0/1)がOSPF エリア0 に参加します。RT-03側も後述の設定で同じエリア0に所属させるため、両者間でOSPFネイバーが確立します。

なお、RT-01とのネットワーク192.168.2.0/24についてはOSPF未対応の隣接であるため、ここではnetwork 192.168.2.0 ...を設定しません。その代わり、このネットワーク(RT-02の直結ネットワーク)もOSPFで周知させるために再配布を用います(次項参照)。

スタティック及び直結ルートの再配布設定

OSPFプロセスのコンフィグモードで、RT-02に存在するスタティックルートおよび直結ネットワークをOSPFへ再配布する設定を行います。コマンドはredistributeを用います。

RT-02(config-router)# redistribute static subnets
RT-02(config-router)# redistribute connected subnets

redistribute staticにより、スタティックルートとして設定された経路(ここでは192.168.1.0/24)がOSPFに外部ルートとして注入されます。

redistribute connectedにより、OSPF非参加インターフェースの直結ネットワーク(ここでは192.168.2.0/24)がOSPFに外部ルートとして注入されます。

各コマンドに付けたsubnetsキーワードは重要です。これを付与しない場合、OSPFはクラスフルネットワーク(主要ネット)しか再配布しません。つまりサブネットマスク付きの経路情報は省かれてしまいますcisco.com。必ずsubnetsを付けて、サブネット経路も含めてOSPFに広報してください。

これでRT-02側の設定は完了です。RT-02はOSPFルータとなり、RT-03とのネイバー関係が確立するとともに、自身が知っている192.168.1.0/24(スタティック経路)と192.168.2.0/24(直結経路)をOSPF外部ルートとして広告するようになります。なお、OSPFに再配布された外部ルートにはデフォルトでコスト20のメトリック値が付与され、External Type 2 (E2)ルートとして扱われますcisco.comnetworkacademy.io。今回は特にメトリックタイプを指定していないため、Cisco IOSの標準動作によりType-2 (E2)で広報される設定です(※E2はOSPF領域内の経路コストに影響されない外部経路タイプで、デフォルトのタイプとなっていますnetworkacademy.io)。

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